[前置き: パスピエについて]
今更ですが、東京芸大卒のピアニスト/キーボーディストの『成田ハネダ』率いる、今個人的に最もお気に入りのバンド「パスピエ」を紹介致します。本当に今更なんですが。
世間と比べてハマるのがかなり遅かったのですが、いわゆる「今話題の音楽」というものを全くリサーチしていない私にとっては、「ホント、よく見つけることが出来たな」と個人的には思うわけです。当然、悔しいに決まっている!
・・・もっと早く知っておけばよかった、と。
どこかで「ポスト相対性理論」という広告を見かけましたが、実際に聞いてみて「どこがやねん!」と思わず呟いたのを今思い出しました。
あと「ボカロっぽい」と感じた方も割といらっしゃるようですね。どこがやねん。
[前置き: 全体的なサウンド]
パッと聴いた印象は、それはもうドラム+ベース+ギターの上に、ピアノやキラキラしたシンセが乗っかる、完全に「バンドサウンド+シンセポップ」系のJ-POPなんですが、少し古いニューウェーブの音が割と鳴っているイメージです。
曲作りは主に成田ハネダが行い、編曲は成田ハネダを中心にバンド全員で行っているようです。
成田ハネダは東京芸大でクラシックを学んでいた時、一番好きな作曲家がドビュッシーだったようで、「印象派音楽とポップロックを混ぜたような曲」を作りたくてバンドを組んだ、的な発言をどこかで見かけました。
実際にパスピエの曲の中で鳴っているフレーズはドビュッシーより固いので、どちらかというとラヴェルの方が近いんじゃないかなあという気がしなくもないですが。
ただ、コンセプトとして掲げているとは言っても、そればっかりというわけではなくて、確かに印象派のそれとわかるような、メジャーとマイナーを行ったり来たりするようなフワフワした曲もあれば、YMOのようなニューウェーブっぽい曲もあれば、オードックスなシンセポップな曲もあったりと、かなりバラエティに富んだ楽曲群を持っている印象です。
ただ一貫しているのは「キャッチーなサビ」という事で、サビが異様にキャッチー、悪く言えば有り触れたメロディなのですが、それがパスピエの凄いところだと個人的には思っています。
なぜなら、曲調が印象派だろうと、YMOだろうと矢野顕子っぽかろうと、どれもこれもサビが現代J-POPのそれなのに、違和感ゼロという地味に凄い事をやってのけているのです。
おかげでパスピエの曲を聴いていると「J-POPなのにフランスの音楽が見え隠れする」だとか、「2000年代のJ-POPなのに何故か80年代ニューウェーブのグループを聞いている」ような、不思議な感覚に囚われることがあります。
ありふれているようで、なんだか新しい…そんな雰囲気がパスピエからは感じられる、ような気がしますね。
余談ですが、成田ハネダは『矢野顕子』と『野見祐二(おしゃれテレビ)』に非常に影響を受けているそうです。これを聞いて「マジか!」と嬉しくなってしまった私でした。こんなところで野見祐二の名前を耳にするとは。どうりで私が好きになるわけです。
しかも矢野顕子の「ラーメン食べたい」がお気に入りの様子。私も同感です。
あとは、フジファブリックが一番好きなバンドなんだとか。それを聞いてさっそくフジファブリックのCDを借りに行く私なのでした。
[前置き: ボーカル『大胡田なつき』について]
ボーカルの大胡田なつきさんの声は、よく『YUKIとやくしまるえつこを足して2で割ったような感じ』と言われているようですね。
確かにYUKIっぽく歌ってる曲もあり、まるえつっぽい曲もあるのですが、
椎名林檎っぽく歌ってる時もあって、個人的には「曲によって歌い方をコロコロ変えるボーカリスト」という印象です。
多分聴いた人によって印象が違うんじゃないかな。
上手いのは間違いありませんが、好き嫌いが分かれるような気もします。
私は好きですけどね。
曲作り面では作詞を担当。あいにく、あまり詞の方には耳を傾けられていないのですが(スミマセン)、パッと聴き普通の文章に聴こえて、よく聴くと「え、それどゆこと?」的な歌詞でした。独特でいいですね。
また、アルバムのジャケットイラストはすべてこの御方が描いているそうです。
[本文: 『わたし開花したわ』について]
パスピエが発表したアルバムを全て聴いてみましたが、アルバムごとに音楽性が少しずつ異なっています。
で、一番「印象派+ポップロック」という言葉がしっくり来るのが、今回紹介する1stミニアルバム『わたし開花したわ』です。
1. 開花前線
2. 電波ジャック
3. あきの日
4. チャイナタウン
5. パピヨン
6. 真夜中のランデブー
7. うちあげ花火
8. 夕焼けは命の海
赤字は個人的に好きな曲
さて、パスピエについて書くのは今回が初めてなので、前置きが長くなってしまいました。すみません。
次回以降は短くなると思います。たぶん。
もうすぐメジャー2ndアルバムも出ようというこの時期なのですが、個人的にはこの『わたし開花したわ』と『OMOMIMONO』のデキが良すぎて、メジャー1stの『演出家出演』は「なんだかパンチが弱くなったなあ…」などと失礼な事をのたまったものです。
大きく『演出家出演』と違うのは、「木管楽器やストリングスなどがクラシカルな旋律を奏でている曲」が多い点、「派手なフランス和声を多く使用している」点ではないかな、と思っています。
1曲目の「開花前線」だったり、「真夜中のランデブー」にしろ、ドラマティックな音使いが個人的にツボなのだなあ、と思います。
とりあえず、収録曲を全曲、下記で紹介します。
Amazonの商品ページで視聴が出来ますので(音悪いけど)、気になった方はどうぞ。
Track 01.「開花前線」
半音階のメロディーが心地良い、フワフワしたイントロから始まる疾走曲。「印象派+ポップロック」というのを見事に体現している気がしてならないです。
Aメロの覚えにくそうなメロディーから、サビになると急にキャッチーに鳴り始めるのが良いバランスで逆にインパクトですね。
サビ裏で鳴るシロフォンっぽい音はどうやって出してるのかなあ…。
何気にベースは実際に弾くと凄く楽しそうなラインです。
Track 02.「電波ジャック」
大胡田さんがYUKIっぽく歌っている曲のひとつ。イントロがいわゆる「ボカロっぽい」と言われているのかな? そこんところはよくわかりませんが。
ポスト・パンクっぽいメロディをシンセで奏でたという感じか、そういう表現のほうがシックリ来るような気がします。
中毒的なメロディが2曲目にぴったりな、そんな曲。
Track 03.「あきの日」
初めて耳にした時は「おお! 矢野顕子っぽい!」なんて思っていましたが、今改めて聴くといろいろなところがユニークに感じてしまう不思議な曲ですね。矢野顕子節を大胡田さんの現代的キュートボイスが歌うというのも新鮮ですし、ギターソロなんかは気合入ってますがフレーズはしっかり80年代ニューウェーブ風のそれだったりと、なんというか、本当に2010年代のバンドなのか!?という感じです。でも音はどう聴いても現代的な音で、それこそ「80年代のバンドじゃないな」とわかります。不思議です。
Track 04.「チャイナタウン」
これも初めて耳にした時の私の印象は「YMOっぽい音だな」という一言に付きていたのですが、サビのメロディーなんかは完全に今風J-POPで、でも裏で鳴ってるシンセのフレーズはYMO…なんていうユニークな曲であることにある日(やっと)気づいてしまってからは、この不可思議な感覚にすっかりハマってしまいました。
凄いのは違和感がない事なんですが、どうしてこんな風に80年代ニューウェーブとJ-POPが同居しているのか…そこはやっぱり成田ハネダのセンスなんでしょうけど、改めて凄いバンドだなあと感じます。
Track 05.「パピヨン」
不思議です。普通に矢野顕子やってます(笑) あちこちの和音の運び方だったり、シンセのフレーズ、音作り。もはやバンドサウンドやってなきゃ矢野顕子に聴こえても仕方ないんじゃないかと思うほどです(失礼)
『小さな世界の音聞こえた』のあたりのコードの進み方は本当に素晴らしい。この「どんどん外れていくのに妙に突進力のある和声」はまさに矢野顕子のそれです。ニヤニヤが止まりません。
サビもばっちりニューウェーブ風で、この曲を聴く度に「本当にいいなあこの曲」と一人気持ち悪く呟いております。
Track 06.「真夜中のランデブー」
キラーチューンです。全体的にドラマティックな疾走曲。サビの転調だったり、間奏部分の転調だったり、本格転調とはかくあるべきだなあと思いますね。どことなくYUKIのソロにこんなのなかったっけな、なんていう無粋な事を考えてはいけません(笑)
このアルバムではこれが一番かな。
Track 07.「うちあげ花火」
パスピエ得意の「80年代ニューウェーブ+シンセポップ」なナンバーですが、わかりやすく言えば「相対性理論からThe Smithsをマイナスして、初期YMOを足したような曲」です(失礼)。
しかし! 一度サビに突入すると、ドラマティックな哀愁のメロディーが雪崩のように飛び込んできます。やっぱりサビではキャッチーなメロディーが奏でられるのですが、サビ後に飛び出すシンセのメロディに泣きそうになります。YMOの『Ongaku』を聴いた時に感じた、あのノスタルジックなメロディ。鳥肌が止まりませんね。
Track 08.「夕焼けは命の海」
哲学的なタイトルのラスト曲。バンドサウンドではありますが、曲調的にはエレクトロニカの王道系が一番近いと思います。
ところどころで鳴り続ける印象派風の和声に終始ビリビリやられる私なのですが、でもよくよく聴けばバンドサウンドなんだよなあ。
パスピエの凄さを最後に見せつけられる、そんなラストに相応しい曲だと思います。
以上、ここまで稚拙な文章で申し訳御座いません。
少しでも、パスピエを良い意味で広めることが出来れば幸いです。
最近の音楽ってホントまともに聴いてないんですが、こんな凄いバンドばっかりゴロゴロいるんでしょうかねえ。凄い時代です。
今注目しているアーティストは、このパスピエとアーバンギャルドですかね。あと真部脩一さん。
今後も応援していきたいと思います。
では最後に、『わたし開花したわ』のダイジェストムービーを貼っておきます。
流れる曲名は動画中では表示されておりませんが、『電波ジャック』→『あきの日』→『チャイナタウン』→『夕焼けは命の海』の順に流れます。